ファイ〇ー工ムブレム シン 龍黒暗と剣の光
第9.アナザー章 ノルドァの奴隷市場
マルシュ王子率いるアルィティア同盟軍は、長い戦いの末にようやく辿り着くことができた。
庇護している ニィナ王女の祖国であった、アカネイヤの地へと。
<千年王宮>とも呼ばれる黄金都のパレシュは、堆い山脈に囲まれた向こう側にある。
奪われてしまった、数々の宝物。 そして、囚われて虐げられもているであろう、兵士や従者たち。
マルシュたちの旅も、ようやく一つの目的に達しようとしていた ――― 丁度、その頃。
千年王宮パレシュの城下町として、華やかに発展してきた、ノルドァの街。
ドルゥア帝国の侵攻により、アカネイヤ王国は滅んでしまったけれども、未だに街は健在だった。
しかし、荒くれた駐留兵や不埒な ならず者が我が物顔で闊歩するような、無秩序な場所と成り下がってはいるが。
今もなお大陸の各地からは、絶えず多様な品々などが集まっている、巨大なバザール。
大都市というだけあって闘技場をはじめとする、賭博場や売春街なども王国時代の頃から続いている。
そして、これらと共に軒を連ねていたのが < 奴隷市場 > だった。
当然ながら、売買されるのは生身の人間であり、この世界においては至って普通に存在している。
生活苦の為に売られてしまった者や、負債を抱えて奴隷身分に落とされた者たちなど。
ところが、戦乱に乗じて攫われてきた女子供や、取り潰されたアカネイヤ王宮へと仕えていた者たち。
今現在の此処では、これらが主だった商品として取引されていたのだ。
「 さっさと歩け、この牝豚どもがっ!! これだから宮仕えだった女は困るんだ 」
前掛けのような薄手の布切れ一枚だけで、殆ど裸も同然の格好な王宮の侍女たち。
鎖に繋がれる彼女たちが、鞭を握る買主だと思わしき男に引っ張られながら連れられてゆく。
そんな彼女たちの哀愁漂う艶めかしい姿を、食い入るように目で追う、無頼漢のコンビが。
万屋稼業を生業としていた ――― パッデン と ゲーハ ( デッパとハゲ )である。
この二人は、ドルゥア帝国のパレシュ占領軍から ” とある依頼 ” を受けていた。
陥落寸前のパレシュ王宮から逃亡していた、ミルォア大司祭の娘である 【 ルィンダ 】 の捕獲。
その彼女が所持している 最高位の魔導書 を確保することだった。
――― あらゆる魔導術書の中で、最強の破壊力を誇るとされる 『 ウォーラ 』。
これを受け継いでいたのが、北方の魔術学園都市カダウィンを統べる最高司祭のミルォアだ。
アカネイヤ王国に設立されていた、パレシュ魔道宮の総司祭長までをも兼務する程の聡明な賢者だったのだが。
かつてのライバルであり親友でもあった暗黒司祭の グァーネフ によって、惜しくも殺害されてしまう。
死の間際、カダウィンにて代々最高司祭が継承していたウォーラの書を、パレシュに居た娘のルィンダへと託す。
愛娘である彼女にしか使用が出来ないよう、呪術的な制約まで掛けて。
これを知ったグァーネフは結託するドルゥア帝国を動かして、アカネイヤ王国の首都パレシュへと侵攻。
その折に王宮内にて匿われていた、ルィンダの身柄とウォーラの書の奪取を試みたのだが。
ルィンダを援助していたニィナ王女の機転で、辛くも彼女は陥落寸前だったパレシュ王宮から脱出。
そのまま受け継いだウォーラの書と共に、彼女は行方を晦ませたままだったのだ。
「 なぁ〜、デッパ兄ィ。 こんな場所に、例の娘がマジで隠れてんのぉ? 」
「 俺の勘じゃあな、この辺りが一番にプンプン臭うんだ。 身を隠すなら、此処ら辺が丁度良いんだよ。
てか、ゲーハ。 俺は ” パッデン ” だからな。 何度も言わせんな、ったくよ 」
そんな遣り取りをしている二人の元へと、背後から近付いて来た、怪しげな小男。
奴隷市場街の一角にて、しがない奴隷商を営んでいたオヤジだった。
街道をキョロキョロ見渡す二人が、どうやら奴隷を買いに来た客だと思ったのだろう。
「 なあ、旦那たち。 ちょっとウチに寄ってかない? 汚ぇガキばかりだけど、取り敢えず見ていくだけでもさぁ 」
「 んぁ? なんだよ藪から棒にぃ? ちょっ・・!? 引っ張んじゃねーって 」
二人は腕を掴まれて半ば強引に言われるがまま、店の中へと連れ込まれてしまう。
「 うっ・・ 臭っせぇぇ〜!! 何だよ、此処はさぁ 」
薄暗闇に漂っている、強烈な悪臭。 まるで牢獄のような造りの部屋だった。
天井際に設けられていた格子の小窓から、僅かばかりな陽光が差し込んでいるだけ。
石積みの壁際には、鎖に繋がれて蹲っている子供ばかりが十数人ほど。
皆一様に暗い表情のままで俯いて、啜り泣いていたり、放心しているような状態だった。
「 マジで汚ぇガキばかりだな。 てか、この中に娘は居ねぇのか? 」
「 だいたい上玉なのは早々に売れちまってさぁ。 胸も毛も未だなのなら、残ってるとは思うけど。
まあ、そのぶん安くしとくからさぁ。 如何だい? 旦那方ぁ〜 」
そうは言っているけれど見た限りでは、ほとんど全てが男児ばかり。
しかも皆が、汚れたボロボロの粗末な格好。 ほとんど裸に近い少年の姿まであった。
ただ、その中に ――― 何故だか一人だけ、 ” 怪しげな格好の少年 ” が。
大人用の大きなローブに全身を包んで、淡いピンクの頭巾まで深々と被っている。
「 変なガキだな。 暑苦しそうな格好してさぁ。 それに何だぁ? この妙なターバンは? 」
気になったハゲが、少年の頭巾へと触れようとした、その途端。
「 わた・・ ば、ぼくに触んなっ! この、ピカピカのツルツルあたまっ!! 不毛が感染るっ! 」
声を荒げながら少年が、蠅などを振り払うかのようにしてハゲの手を撥ね退けた。
突然の出来事と思いがけない暴言を受けてしまい、ショックのあまりに立ち竦んで固まってしまうハゲ。
やさぐれた見た目とは対照的に、とてもナイーブな性格の持ち主なのだ。
「 おいっ!! これから御主人様になるかもしれねぇ客人に向かって、なんて態度なんだっ!? 」
慌てた奴隷商のオヤジが、間に割って入って少年を怒鳴りつける。
しかし当の本人は、俯きながら目線を逸らして不貞腐れたかのように、黙ったままで謝ろうともしない。
そんな様子に業を煮やしたのか、オヤジは腰に差していた長鞭へと手をかける。
「 このクソガキっ。 少々 ” 躾 ” ってもんが必要のようだな 」
握ったそれを軽く しならせながら、少年へと目掛けて勢いよく振り降ろしたのだ。
ビチィっ!!!!!
「 んぁあああぁぁぁあぁっ!!! 」
直後、室内いっぱいに響き渡った、鈍い炸裂音と甲高い悲鳴。
その場で崩れるように倒れ込み、もがきながら苦悶の表情を浮かべる少年。
しかし奴隷商のオヤジには容赦どころか、一層の拍車がかかってしまったようだ。
「 娘っ子みたいな声色で鳴きやがってぇ。 ますます、そそってしまうじゃねーかぁ。 へへっ 」
更に鞭打ちの制裁を加えながら、力の限りに責めたててゆく。
対する少年は、両手で頭巾を抱えながら、ひたすらに耐え凌でいるばかり。
そんな鞭打たれる少年が着ていたローブの裾から、不意に何かしらが転げ出てきた。
どうやら、一冊の ” 書物 ” らしき物のようだった。
するすると滑り込むようにして、それが傍で見ていたデッパの足元へと。
「 んんっ? なんだ、この本 ――― 」
シミの一つも全く無い純白の地に、金縁の装飾にてあしらわれた綺麗な表装。
拾い上げてみると、細部に至るまで刻まれみ込まれた不可思議な文様も。
その中をハラリと開き見れば、ビッシリと書き詰められていた解読の出来ない文字まで。
「 !! これって、まさか? ――― 魔導書 だよな・・・ 」
「 っ?! か、返してぇ!! そ、それは、お父様から託された、大事なウォ・・ っ! ――― 」
気付いた少年が、書物を手にするデッパへと向かって、そう叫ぶ。
――― だがしかし、途中で咄嗟に口を噤んでしまった。
これを受けて、驚きに眼を丸くさせたデッパだが。
いきなり狂ってしまったかのごとく、奇声にも似た哄笑をあげたのだ。 「 ――― そういう事か 」 鋭い三白眼をより一層にギラギラと輝かせながら、少年の姿を見据えている。 運と察しの良さだけは、何処の誰にも劣らないのだと。
己の出自についてと同じぐらい、常日頃から自慢気に語っている程だった。
「 おい親父っ! そのガキ、今すぐ買わせてもらうぜっ。 うんと安くしろよ 」
それから ――― 程なく時間が経ち。
「 はぅっ?! うっ、嘘だろぉ・・・マジでぇ?!! 」
驚きの余り大きく開いた眼と口が、まったく塞がらない様子な奴隷商のオヤジ。
ブルブルと肩を震わせながら、受け取った代金の袋までも床へと落としてしまう有様だった。
「 きゃははっ!! これぞ ” 瓢箪から駒 ” ってヤツだよな。 デッパ兄ィ 」
「 まあ今回のことは、残念だったと思うしかないよな、親父ぃ。
次からは自分とこの商品を、隅から隅まで良ぉ〜く調べてから、売りに出すことだ。
ってか、ゲーハっ。 俺はパッデンだからっ! そろそろ覚えろよ、コノヤローっ!! 」
喜々とはしゃぐばかりな、ハゲとデッパの二人組。
それぞれ手にしているのは、少年が着込んだローブの中へと 隠し持っていた ” 品々 ” だ。
女性ものだと思わしき、宝石の鏤められた貴金属のサークレットやブレスレット、ベルトなどの高価な装飾品も。
あの淡いピンクの頭巾にしていた物もまた、実はシルクで仕立て上げられた衣装だった。
けれども、もっとも驚くべきなのは ――― 当の少年 ” 自身 ” であろう。
新たな主となった二人から、挟まれるようにしてテーブルの上へと跪かされている。
拘束している枷と鎖以外は、身包み全てを剥ぎ取られてしまっていた格好だ。
ただ、 その姿を ” 少年 ” と呼ぶには、難が有り過ぎかもしれない。
「 んぐぅっ・・・・・ 」
真っ赤に頬を染めながら、今にも溢れんばかりの涙が光る緋色の円らな瞳。
ピンクのシュシュにて束ねられた、腰まであろう長い艶やかな栗毛の頭髪。
純白の素肌が際立った身体には、痛々しい鞭打ちによる赤く腫れた痕も然ることながら。
これよりも一際目に付いたのが、ふっくらと膨らむ発達途上の乳房に桜色の乳首。
それに主人となった二人から、命じられるがまま開脚させられた下肢と露わとなった股間。
腰布までをも剥ぎ取られてしまったそこに、薄っすらと生える栗毛の茂みはあれど。
男子にある筈の ” シンボル ” が、何処にも無い。
代わりに、ぷっくりとした恥丘に縦方向へと割れた、淡いピンクの筋目が。
何処から如何見ても晒した姿は、少年などではなく 若い娘 そのもの。
「 まさか、薄汚ぇガキの姿に変装してたとはなぁ。 随分と探してたんだぜぇ、お嬢ちゃん 」
しかも二人が依頼を受けていた、対象だった人物。
ミルォア大司祭の愛娘 ――― あの 【 ルィンダ 】 でもあったのだ。
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