耐え難いほどに襲い来る激痛の中で、俺は思い返す。
今更、何もかもが遅すぎなのかもしれないけれど。
俺の短い人生なんてモンは、如何しようもない後悔の連続ばかりだった気がする。
武勇伝に憧れを抱いて冒険者となるため、村を飛び出して行った時もそうだった。
知識や経験も浅かったし、装備はもちろん資金も本当に乏しかった。
幼馴染の言うとおり、もう少し家業を手伝いながら資金をためて、知識を深めて剣技も鍛えていれば。
冒険者ギルドにて三つ編みの受付嬢さんから、忠告された時もそうだった。
もっと駄目元でも、ベテランそうな冒険者たちに色々と声を掛けてみれば良かったのかも。
幼馴染の言うとおり、難易度の低い下水道の鼠退治や溝浚いに変更してさえいれば。
依頼を受けて、今居る洞窟の中へ這入ろうとした、直前の時もそうだった。
入口の標と同じものが、内部にも置かれてることに気を取られてしまい、姑息な罠を見落としてしまったから。
幼馴染の言うとおり、功を焦らずにもっと慎重な行動さえしてさえいれば。
こんな惨めも過ぎる憂目になんて、遭わなくても済んだのかもしれないのだ。
本当に何もかもの全てが、幼馴染の言うとおりだった。
そんな俺は、いつも彼女に迷惑を掛けっぱなしだったような気がする。 いや、きっとそうだ。
数か月だけ早く生まれたからって、まるで姉御気取りだった彼女。
名の知れた格技の達人だった一人娘だったこともあって、立派な武道家である。
一方で俺はといえば、しがない農家の倅で、なおかつ次男坊だ。
特段の取り柄もなければ、受け継ぐような財産すらない。
だけど、こんな俺のことを隣に住んでいた彼女は、いつも気にかけてくれていた。
同い年の幼馴染という理由もあるかもしれないけど、別の理由もあったからなのだろう。
本当ならば男の俺が、もっと彼女のことを守らないといけないのに。
守られていたのは、いつも俺の方ばかりだった。
幼かった頃に、彼女が母親を病気で亡くした際は、あまり憶えいないけれど。
村から旅立つちょっと前に、不慮の事故で父親さんが亡くなってしまった時は、そうだった。
俺は、冒険者となることばかりに気を取られていた。
何もしてやれなかったし、何の言葉もかけてやれなかった。
それでも彼女は、涙のひとつ見せようとはせずに、凛として気丈に振る舞っていた。
かえって俺のことを心配させまいと、彼女の方から励ましてくれた程だ。
俺たち二人が、新米の冒険者として村を出た時も。
最初に訪れた街で泊まった、あの宿でも彼女の方から・・・。
どこまでも幼馴染の彼女には、色々と面倒事やら迷惑なんかを掛けさせてしまっている。
だからこそ ――― まさに、今。
愛おしい彼女の一途な想いに対して、俺は答えなければ。
この身を挺してでも、守ってやらねばならない。
この命を賭してでも、戦い尽くさねばならない。
是が非だろうとも、絶対に報いてやらなければならないのだが。
――― だが、しかし。
残酷なまでに、こんな俺がしてやれることは皆無に等しい。
挺する身は、ボロボロなまでに叩きのめされてしまっている。
賭する命も、風前の灯よろしく尽きかけようとしている。
ゴブリンどもに腕や足を叩き潰されてしまい、胸や腹すら裂かれてしまっている。
喉まで潰されて、耳さえ削がれてしまったようだ。
もう、何ひとつだって、叶えることは出来ない。
ただただ薄れ遠退いてゆく意識の中で、今迄の行いを漠然と思い返すことしか。
ああ、本当に俺は ――― 心底、情けないヤツだ。
やはり冒険者なんか、早々に諦めてしまえば良かったのかもしれない。
彼女と一緒に別の違う生き方を選択することだって、当然ながらあったはずだ。
間違いなく彼女も、俺の想いに答えてくれるだろう。
ああ、今更ながらに考え直して、もはや後の祭り。
まさに 『 後悔先に立たず 』 とは、この事だ。
何もかもが、手遅れなんだけど。
・・・・・・・・・・・・
もう身体を動かすどころか、喋ることも聞くことすらも、一切が不可能だけども。
こんな為体の俺に、ほんの僅かばかり残されていた気力と体力。
最期に、なけなしのそれらを無理矢理に振り絞って、重たくなった瞼を開いてみれば。
眼に飛び込んできたのは ――― ・・・・・
淫らに悶えている、愛おしい幼馴染の姿だった。
だけど二度目であろう彼女と、結ばれていたものとは。
もちろん、常日頃から一緒に行動を共にしていた、幼馴染である・・・
お互いに ” 初めて ” の相手でもあった ――― この 俺 なんかではない。
忌まわしく汚れきった ゴブリン だった。
よりにもよって、こともあろうに、醜すぎて憎たらしいほどの仇敵に。
本当 「 惨たらしい 」 としか、表現のしようがない。